
東洲斎写楽の作品
東洲斎写楽の木版画「初代市川男女蔵の奴一平(しょだいいちかわおめぞうのやっこいっぺい)」は、緊迫した劇的瞬間を生き生きと描いた役者絵です。
写楽特有の鋭い造形と心理的な表現が際立ち、役者・市川男女蔵の個性と、登場人物一平の舞台上の緊張感の両方を捉えています。
作品「初代市川男女蔵の奴一平」について
この版画は、1794年5月に河原崎座で上演された歌舞伎『恋女房染分手綱』に登場する奴一平を演じる初代市川男女蔵を描いたものです。
一平は敵に立ち向かう場面で、刀を抜こうと身構え、決意と緊張感に満ちた表情を見せています。
特に鋭く描かれた顔立ちや見開いた眼差し、鮮やかな赤の襦袢(赤襦袢/aka-juban)が強烈な印象を与えます。
写楽は、役者の姿勢や視線、衣装の細部を描き込み、人物の内面の力強さと舞台上の迫力を同時に表現しています。
初代市川男女蔵について
市川男女蔵(初代、1781–1833)は、立役としての強さで名を馳せ、英雄的な役から悪役まで幅広くこなした歌舞伎役者でした。
名優・市川団十郎五代目の門下生として江戸の歌舞伎界で頭角を現し、力強い舞台上の存在感と感情豊かな演技で一躍人気役者となりました。
特に荒事風の役や対立的な役での迫真の演技で知られ、彼の若さと堂々たる舞台姿は写楽の役者絵にもそのまま反映されています。
この役者絵の意義
写楽による市川男女蔵の奴一平像は、単なる舞台人物像にとどまらず、心理的洞察を与え、役と役者の両方を描き出しています。
鋭い表情、大胆な体の傾き、燃えるような目線は、即時的で緊張感に満ちた肖像を生み出しています。
この作品は、写楽の革新的な役者絵の中でも傑出しており、写実性と舞台的誇張を融合させた代表的な一枚で、江戸歌舞伎のエネルギーと表現力を象徴しています。
英題: Ichikawa Omezo I as Yakko Ippei
和題: 初代市川男女蔵の奴一平(しょだいいちかわおめぞうのやっこいっぺい)
役柄: 『恋女房染分手綱』の奴一平(1794年5月・河原崎座)
作者: 東洲斎写楽(とうしゅうさいしゃらく)
制作年: 1794年 / 寛政6年(江戸時代)
技法: 木版画(浮世絵)
ジャンル: 歌舞伎役者絵