
Floating World Artについて
美の再解釈、時を超えて
Floating World Artは、私の父が魅了された浮世絵、そして東洲斎写楽の歌舞伎役者絵から始まりました。
父は長い年月を経て色褪せたり細部が失われたりした作品に新たな命を吹き込み、デジタルの技術を使って現代的に甦らせています。
ここでは父の歩みをご紹介し、写楽とは誰であり、彼の芸術が今もなぜ特別なのかを探っていきます。
Our Story — はじまり
幼少からの関心
父は子どもの頃から時代劇や歴史に夢中でした。
私が幼い頃も、テレビで時代劇を観たり、歴史書を手にしている姿をよく覚えています。
その延長線上で、江戸時代の歌舞伎役者を描いた浮世絵に強い関心を抱くようになりました。
写楽との出会い
北斎や広重といった大家が世界的に知られる一方で、父が惹かれたのは短い期間だけ活動した謎の浮世絵師、東洲斎写楽でした。
写楽の役者絵は、当時の歌舞伎のトップスターたちを描いたもので、そこには「粋」の美意識と役者の個性が鮮やかに表れています。
父が好んだ役者たちがモデルとなっていたこともあり、写楽の作品は特別な存在となったのです。
デジタルによる再解釈
写楽の大首絵は版画という性質上、色彩や陰影の表現には限界がありました。
また経年によって退色し、細部が見えにくくなっているものもあります。
父は地図制作の仕事に携わる中でデジタルツールを使うようになり、浮世絵の版木を重ねる手法とデジタルのレイヤー構造に共通点を見出しました。
そこでコンピュータを使い、膚の色や影を加え、現代風に表情を描き直す試みを行ったのです。
デジタルならではの細やかな彩色によって、当時の役者たちの魅力を現代に再現することができました。
広がるアイデア
制作を続けるうちに「これらの作品をどう活かせるか」と考えるようになりました。
やがて写楽の役者絵を使ったカードゲームや塗り絵といったアイデアに発展し、
さらに江戸時代の三座(歌舞伎の三大劇場)の競い合いから着想を得て、新たなデザイン構想へとつながっていきました。
ここで紹介する作品は、父による写楽の再解釈です。
写楽を敬いながら、その存在を北斎や広重といった巨匠たちと同じように、世界に広く伝えていくことを目指しています。
写楽とは誰か
東洲斎写楽は、わずか1794〜1795年のおよそ10か月ほどの間に、約150点もの歌舞伎役者絵を描いた浮世絵師です。
他の絵師と異なり、写楽は誇張された表情や人間味あふれる感情を描き出し、当時理想化されていた美の型から大きく逸脱しました。
そのため彼の作品は発表当時に受け入れられず、10か月で忽然と姿を消したため、その素顔や素性はいまだ謎に包まれています。
今日、写楽は江戸時代でもっとも革新的で大胆な芸術家のひとりとされ、時代を超えた先見性を持つ天才として評価されています。

(パブリックドメイン — 江戸時代の木版画)
使命とビジョン
使命
父の芸術的な歩みを広く伝えること。
写楽の役者絵を現代的に再解釈した作品を通じて、浮世絵の知られざる一面を紹介し、日本文化への関心と好奇心を呼び起こすことが私たちの使命です。
ビジョン
写楽の精神を歴史上の人物としてではなく、現代との「創造的な対話」として生かし続けること。
江戸の歌舞伎と現代の想像力を結びつけ、世界と日本の文化をつなぐきっかけを生み出すことを目指しています。
作品の見どころ
江戸と現代の対話を探る
下の2作品は、1794年に東洲斎写楽が描いた同じ人物像と、200年以上の時を経て父によって再構築された現代版の対比です。
江戸の巨匠による木版画と現代のデジタル再解釈を並べることで、表現・技法・感情が時代を超えて受け継がれていることが浮かび上がります。

東洲斎写楽《田辺文蔵の妻おしづに扮する三代目瀬川菊之丞》(1794年)
(パブリックドメイン — 江戸時代の木版画)

〔2025年〕父によるデジタル・レイヤー版再解釈。
写楽の構図をもとに、現代の光と色彩で新たな命を吹き込んだ作品。
これから
Floating World Artの目的は単なる保存ではなく「進化」です。
父は写楽のモチーフをカードゲームや塗り絵、デザインの着想源として広げてきました。
江戸歌舞伎の「座」から着想を得て、現代に通じる新たな reinterpretation を提案しています。
結びに
かつて「浮世」と呼ばれた移ろいゆく時代の美は、いま新たに現代の視点から再解釈されています。
父の作品を通じて、一人でも多くの方が歌舞伎、浮世絵、そして日本の創造性の魅力を再発見していただければ幸いです。