
東洲斎写楽の作品
東洲斎写楽の木版画「三代目佐野川市松の祇園町の白人おなよ(さんだいめさのがわいちまつのぎおんのはくじんおなよ)」は、強烈な舞台上の存在感をとらえた役者絵です。
写楽特有の心理的な写実性と劇的な表現に焦点を当て、歌舞伎役者・三代目佐野川市松の芸を描き出しています。
作品「三代目佐野川市松の祇園町の白人おなよ」について
この作品は、歌舞伎『祇園町』に登場する白人おなよを演じる三代目佐野川市松を描いたものです。
衣装には「市松模様」が取り入れられており、これは市松自身が舞台と公私の両方で広めたことで、江戸時代の文化・流行において大きな影響を与えたデザインです。
背景には黒雲母摺(きら/雲母の粉を使った摺り技法)が施され、上半身の鋭い表情と凝視する目を強調しています。
写楽は、役者の目の力、姿勢、そして衣装の細部を徹底的に描き込み、おなよの物語性と市松の強烈な舞台上の存在感を際立たせています。
三代目佐野川市松について
三代目佐野川市松(18世紀後期に活躍)は、名門・佐野川一門に属する歌舞伎役者でした。
立役(たちやく/男性の主役)も女形も演じることができる多才な役者として知られ、その幅広い芸域と深みのある表現力で高く評価されました。
彼が衣装に取り入れた「市松模様」は、舞台上だけでなく大衆文化に広まり、江戸時代のファッションやデザインの流行にまで影響を及ぼしました。
その人気と演技力は、江戸歌舞伎の華やかさを象徴する存在でした。
この役者絵の意義
この作品は、同時代の多くの作品を凌ぐほど鋭く劇的に役者を描き出した名作です。
写楽による「祇園町の白人おなよ」の肖像は、江戸歌舞伎の複雑さを映し出し、一枚の絵の中に市松の心理的洞察と舞台芸を見事に凝縮しています。
技術的な完成度と感情表現の深さを兼ね備えたこの役者絵は、写楽の短い活動歴の中でも特に優れた舞台肖像のひとつとされ、浮世絵史に輝く重要な作品です。
英題: Sanogawa Ichimatsu III as Shirouto Onayo of Gion Town
和題: 三代目佐野川市松の祇園町の白人おなよ(さんだいめさのがわいちまつのぎおんのはくじんおなよ)
役柄: 『祇園町』の白人おなよ
作者: 東洲斎写楽(とうしゅうさいしゃらく)
制作年: 1794年 / 寛政6年(江戸時代)
技法: 木版画(浮世絵)
ジャンル: 歌舞伎役者絵