
東洲斎写楽の作品
東洲斎写楽の木版画「三代目坂東彦三郎の鷺坂左内(さんだいめばんどうひこさぶろうのさぎさかさない)」は、役者の心理的な深みと力強さを捉えた重要な作品のひとつです。
写楽特有の鋭い表現が際立ち、18世紀末の江戸歌舞伎の活気を今に伝えています。
作品「三代目坂東彦三郎の鷺坂左内」について
この版画は、1794年5月、河原崎座で上演された歌舞伎『恋女房染分手綱』に登場する鷺坂左内を演じる三代目坂東彦三郎を描いたものです。
左内は、主人公与左衛門を支える「烏帽子親(えぼしおや/師・後見的存在)」として登場します。場面は左内が召使・繁之丞を連れて与左衛門を訪ねる場面を描いています。
写楽の初期の「大首絵」の一作であり、背景に雲母摺(きらずり/黒雲母摺)を施した大胆な構成によって知られています。
厳格な表情と力強い動作は、役者の演技を超えて、人物の内面と舞台上の迫力の両方を見事に表現しています。
三代目坂東彦三郎について
三代目坂東彦三郎(18世紀後期に活躍)は、多彩な芸と力強い存在感で知られる著名な歌舞伎役者でした。
歌舞伎の名跡「坂東家」に生まれ、その伝統と名を継承しました。彼の演技は真に迫る表現力と舞台での圧倒的な存在感で高く評価され、英雄的な役から悪役まで幅広く演じ、常に江戸の観客を魅了しました。
その芸風は「感情の確信と力強さ」として知られ、江戸歌舞伎の舞台に強烈な印象を残しました。
この役者絵の意義
写楽の描写は、単なる舞台記録を超えて、役の持つ曖昧さや緊張感、強烈な感情を見事に表現しています。
特に表情や手の描写に焦点を合わせることで、役者が人物へと変化する過程を鮮明に捉えました。
観客に舞台芸と人間性の両方を強く伝え、写楽の短くも鮮烈な画業と、江戸歌舞伎の芸術的な力を証する傑作のひとつとなっています。
英題: Bando Hikozaburo III as Sagisaka Sanai
和題: 三代目坂東彦三郎の鷺坂左内(さんだいめばんどうひこさぶろうのさぎさかさない)
役柄: 『恋女房染分手綱』の鷺坂左内(1794年5月・河原崎座)
作者: 東洲斎写楽(とうしゅうさいしゃらく)
制作年: 1794年 / 寛政6年(江戸時代)
技法: 木版画(浮世絵)
ジャンル: 歌舞伎役者絵